【知る】HAEとその原因

監修:福岡市立病院機構 福岡市民病院 堀内孝彦先生

ここでは、遺伝性血管性浮腫(hereditary angioedema: HAE)とはどんな病気か、発症する原因やその仕組み、病態によって分類される3つのタイプなど、HAEの概要についてご紹介します。

遺伝性血管性浮腫(HAE)とは?

遺伝性血管性浮腫(HAE)とは遺伝する病気であり、「C1インヒビター(別名:C1インアクチベーター)」という物質のはたらきが低下することが主な原因となります。体のいろいろな場所に突然腫れが起き、顔(くちびる、まぶた、舌など)、手足などの目に見える場所だけでなく、腸やのどなど目に見えない場所にも起こります。腫れる場所はいつも同じとは限りません。のどに腫れが起きたときは気道がふさがれてしまう場合もあり、命に関わることもあります。また、腫れは繰り返し起こり、週に数回起こる人もいれば、数ヵ月に1回、数年に1回しか起こらない人もいます1),2)
5万人に1人といわれるまれな病気で、多くは10歳代から発症するとされています1)。約4分の3は親から子への遺伝によるもの、残る約4分の1は親を含めた家族に同じ症状を持つ方がいらっしゃらないものがあります1),3)
日本の患者さんの発症年齢は平均18歳、症状が現れてから診断されるまでの期間は平均15.6年であると報告されています3)


HAEの原因、発作の起きる仕組み

HAEの主な原因は、「C1インヒビターの不足・機能の低下」です。HAEの患者さんは、C1インヒビター遺伝子の変化により、C1インヒビターの量が減っていたり、うまく機能しなかったりします。
C1インヒビターには、ブラジキニンという物質の生成を抑える働きがあります。ブラジキニンは、増えすぎると血管から水分を漏れ出させて腫れを起こします。ストレスなどが引き金となってC1インヒビターによる抑制が効かなくなると、ブラジキニンが過剰に作られてしまい、腫れが起こります1),2)。


HAEのタイプ(1型、2型、3型)

HAEのタイプは、その病態により3つのタイプ(1型、2型、3型)に分類されます1),2)
HAE1型は、C1インヒビターの遺伝子に変化があり、C1インヒビターの産生量が減り、機能も低下しています1)。HAEの約85%を占めます1)
HAE2型も、C1インヒビターの遺伝子に変化があり、C1インヒビターの産生量は正常ですが、機能は低下しています1)。HAEの約15%を占めます1)
HAE3型は、C1インヒビターの遺伝子には変化がなく、C1インヒビターの産生量や機能も正常で、非常にまれなタイプです。C1インヒビター以外の原因で生じます。原因となる遺伝子の変化がいくつか見つかってきていますが、原因がわからない場合が多く、詳しいことはまだ不明です。女性に多く発症します1)

最近では、HAEの原因が詳細にわかってくるにつれて、HAE1型およびHAE2型はC1インヒビター(C1 inhibitor: C1-INH)に起因するHAEとして「HAE-C1-INH」、HAE3型はC1インヒビターが正常なHAEとしてHAE with normal C1 inhibitor (HAEnCI)の呼称が広まってきています。
HAE-C1-INH、HAEnCIのどちらであっても、腫れが起こる主な原因はブラジキニンと考えられます。
HAE-C1-INHとHAEnCIの臨床所見は基本的には類似していますが、異なる点もあります。

HAEのなりたち

遺伝性に限らない血管性浮腫そのものについては、19世紀後半にドイツの医師クインケらによって報告されており、「クインケ浮腫」として広く知られています。このうち遺伝性が明らかなものとして区別されたのがHAEで、当時アメリカの大学に在籍していた医師のオスラーによって1888年に初めて報告されました4),6)。当時は原因が明らかになっていませんでしたが、1963年にC1インヒビターの機能低下であることが判明しました4)。2000年代になると、C1インヒビターの遺伝子に変化のないHAE3型の存在が認められ、近年では複数の遺伝子の変化が次々と発見されており、病態の解明、治療法の開発が進められています1),4)

1)大澤勲 編:難病 遺伝性血管性浮腫(HAE). 医薬ジャーナル社. 2016.補体 Vol.60, No.2, 103-131, 2023
2)Wedner HJ: Allergy Asthma Proc 2020; 41(Suppl 1): S14-S17.
3)Iwamoto K. et al. ; Allergol Int 70(2): 235-243, 2021
4)堀内孝彦 他, 日本補体学会雑誌「補体」60(2): 103-131 2023

5)Hashimura C, et al. Allergy 2022
6)Osler W: Am J Med Sci 1888; 95: 362-367.

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