監修:福岡市立病院機構 福岡市民病院 堀内孝彦先生
遺伝性血管性浮腫(hereditary angioedema: HAE)は遺伝性の血管性浮腫であり、クインケ浮腫はHAEを含む血管性浮腫の別名です1)。HAEとHAE以外のクインケ浮腫は、急に腫れるという点で似ていますが、原因が異なることから治療法が違います。ここでは、クインケ浮腫にどんな種類があるのか、症状などの特徴はどう違うのかについてご紹介します。
クインケ浮腫(血管性浮腫)の分類
クインケ浮腫とは、急に皮膚などが腫れる病気の症状のことであり、症状は数日以内で消えるのが特徴です2)。クインケ浮腫はいくつかの原因で起こることが知られており、大きく分けると、遺伝子の変化が原因で起こるもの / 遺伝的背景によらないものがあります3)。遺伝子の変化によるものにHAEがあり、主にC1インヒビター(別名:C1インアクチベーター)という物質の遺伝子の変化が原因で起こります1)。一方、遺伝的背景によらないものは、薬やアレルギーなど、いろいろな原因で起こります1)。
厚生労働省:重篤副作用疾患別対応マニュアル 血管性浮腫(非ステロイド性抗炎症薬によらないもの). 令和元年9月改定.より作成
HAEとHAE以外のクインケ浮腫(血管性浮腫)との鑑別
HAEとHAE以外のクインケ浮腫は原因が異なるため、特徴や症状、治療法も異なります。のどに腫れが生じると、ときに命に関わる状態にもなるため、原因がなにかを見分けることが大切です1)。
見分ける最初のポイント:家族歴
多くの場合、HAEを疑う方の血縁者に1人以上同様の症状がある方がいらっしゃいます。原因不明の皮膚の腫れ、腹痛やのどの腫れにともなう息苦しさや違和感がないか、詳しく尋ねることが重要です。
見分ける主なポイント①:症状の起こり方
HAEでは手足であれば片側(非対称性)に境界がはっきりしない腫れぼったいむくみが突然あらわれ1)、通常は24時間でピークとなり、数日後には跡形なく消えます3)。
見分ける主なポイント②:じんましんを伴わない
じんましんではかゆみを伴って、少し盛り上がった境界明瞭な発疹が出ます。HAEでは、かゆみや赤みはないのに皮膚に境界不明瞭な腫れがみられます2)。
HAE | HAE以外のクインケ浮腫 (ヒスタミンという物質を介する場合) | |
---|---|---|
発症年齢 | ⚫小児期、思春期 | ⚫成人期 |
家族歴 | ⚫同じ家系内に、HAEが疑われる人がいる | ⚫同じ家系内に、HAEが疑われる人がいない |
症状 | ⚫じんましんを伴わない ⚫皮膚の腫れの境界がわかりにくい ⚫腹痛がある ⚫のどの腫れ(ときに命に関わる) | ⚫多くは、じんましんを伴う ⚫皮膚の腫れの境界がわかりやすい |
検査 | ⚫補体C4濃度の低下 ⚫C1インヒビターの機能の低下 ⚫C1インヒビター遺伝子の変化あり | ⚫補体C4濃度は正常 ⚫C1インヒビターの機能は正常 ⚫C1インヒビター遺伝子の変化なし |
治療 | ⚫抗ヒスタミン薬、ステロイドが効果を示さない | ⚫抗ヒスタミン薬、ステロイドが効果を示す |
注)病気やそのタイプによっては、上記の表に該当しない場合があります。
1)堀内孝彦 他, 日本補体学会雑誌「補体」60(2): 103-131 2023
2)大澤勲 編:難病 遺伝性血管性浮腫(HAE). 医薬ジャーナル社. 2016.
3)厚生労働省:重篤副作用疾患別対応マニュアル 血管性浮腫(非ステロイド性抗炎症薬によらないもの). 令和元年9月改定.